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 ショートショート

  Taika Yamani. 

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  「サンタさんの代理人」


 母娘二人、大きなベッドに寝そべって、「リ」の字になって、絵本を覗く。
 もうすぐクリスマス。
 今日の絵本は、サンタクロースのお話。
 いい子にしてると、クリスマスにプレゼントをくれる、不思議なおじいさん。白いひげがもじゃもじゃで、真っ赤な派手な服を着て。赤い鼻のトナカイに引かれた空飛ぶソリに乗って、贈り物のたくさん入った白い大きな袋を持って。クリスマスの夜に、世界中を飛び回る。
 本がおしまいまでいくと、娘はページを戻して、期待に満ちた問いかけをしてきた。
 「サンタさんって、ほんとにいるの?」
 物事を無条件に信じこまないこの子は、すごいわたし好み。
 それでも、娘の視線は期待に満ちている。
 わたしは、サンタクロースは本当にいるなんて、嘘はつかない。この子に嘘だけはつきたくない。
 だから、否定するのも嘘をつくのも簡単だけど、娘の夢をそう簡単に壊すべきじゃないと思うわたしは、小さく首を斜めにする。
 「うーん、どうかしら?」
 「ママは、会ったこと、ある?」
 「あるような、ないような」
 「あるの!?」
 娘は目を輝かせて、わたしを見上げる。
 のってきた娘に、わたしは焦らすように、もったいぶっていう。
 「正確には、サンタさんの代理人、になら、会ったこと、あるわ」
 「……ダイリニン?」
 娘は、よくわからない顔。
 わたしはくすくす微笑みながら、他の人のかわりに何かをしてくれる人よ、と説明する。
 「サンタさんのかわりに、プレゼントをくれる人がいるの」
 「サンタさんの、かわり? お話と違う」
 「まあ、わたしも聞いた話だけどね、サンタさんは、とても忙しいんだって」
 「そうなの?」
 「だって、クリスマスの日は、一日で世界中を飛び回るのよ? 大忙しでねー、もうたいへん!」
 「たいへんっ!」
 わたしが少しオーバーに言うと、娘も慌てたように声をあげた。
 「だからね、優しい家族がいるところでは、その家族が、サンタさんをするの。例えばお母さんとかが、ね」
 娘は敏感に、すぐにその意味に気付いた。
 きゃあ、と、嬉しそうに歓声をあげる。
 「じゃあ、ママがわたしのサンタさんだ!」
 首根っこに、抱きついてくる。
 「あは、実はそうなの」
 「わたし、じゃあ、いい子でいる!」
 「いつもいい子よ」
 わたしは微笑み、娘のオデコにキスをする。
 娘はくすぐったそうな、気持ちよさそうな様子だったが、すぐに疑問を思い浮かべたようで、不思議そうな顔をした。
 「ねぇ、ホンモノのサンタさんは、どこなら行くの?」
 「ん、優しい家族がいれば、ダイリニンもいるけど、そうでないところには、いないから。うわさによると、そんな家族がいない子に、本物のサンタさんは贈り物をするんだって」
 現実には、優しい家族がいない子どもには、クリスマスの贈り物なんて期待できないのだろうけど。代理だろうと本物だろうと、サンタを信じることができるのは優しい家族がいる子どもだけだろうけど。
 でも、今のこの子は、まだそんな事実を知る必要はないと思う。
 わたしはサンタが実在するなんて、嘘はつかない。それでも、夢はいくらあってもいい。
 どんな夢でも、ちゃんとまわりの大人がフォローしてあげれば、子どもの夢はとても輝ける。
 「え、じゃあ、そんな子は、ホンモノのサンタさんが見れるんだ。いいなー」
 「えーと、わたしは、優しくない方がいい? そうしたら、本物が来るかも」
 「えー! やだ!」
 きつい、一生懸命な顔で、娘はわたしを睨む。
 「嫌いになったら、泣くもんっ!」
 素直な本気が伝わってくる。
 可愛くて、いとおしい……。
 わたしは笑い、娘をぎゅっと胸に抱きしめてしまう。
 「大丈夫よ」
 また、キス。
 「嫌いになんて、なれないから……」
 娘は、うん、と、元気よくニッコリ頷いた。
 「ママは、わたしだけの、サンタさんなの!」








おしまい。 

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二稿 2004/12/22
更新 2008/02/29