キオクノアトサキ
Taika Yamani.
没話その1 「初登校前の作戦会議?」 (第七話前)
「学校でどうするか、翼くんには三つ、選択肢があると思う。一つは、そのままおれっていう言葉遣いで通す。性格も取り繕うとしないで、そのまま」
「成り行き任せの深く考えない道だな」
「それって、学校の人、引くんじゃないでしょうか? わたしはもう慣れましたけど」
「うん、みんなゼッタイ引いちゃうよー。みんなに嫌われちゃうかもしれないし、翼が戻ってきたらどうするつもりなの〜?」
陽奈の言葉を翼が要約し、飛鳥が疑問点を挙げて、文月がそれを補強する。
「そうだね、その危険性があるよね」
テーブルの前に座ってお茶を飲みながら、陽奈はそう言って小さく頷いたが、問題点の整理は後回しに、まずは自分の考えをさらに列挙した。
「二つめは、正反対。翼くんが、翼を演じる。これは練習も一杯いるし、わたしたちがしっかりフォローしなきゃだめだね」
「面倒くさい上に時間もないな」
「面倒くさいとか言ってる状況じゃないでしょっ」
「でも、あんまり、姉さんには演技とか、してほしくない……」
また三者三様の意見。陽奈は少しだけ笑って、第三の案を口にする。
「三つめが、言葉遣いだけなんとかしてもらって、後はそのままいく案。翼くんって翼によく似てるから、無理はないと思うんだよね。記憶の問題はみんな知ってるし、嫌な人以外、あんまり踏み込んではこないとも思うし。ただ、これも、やっぱりちょっとみんな、翼くんのこと誤解しちゃう可能性はある」
「じゃあだめじゃんっ」
「どれも問題が一杯ですね……」
「おれが考えてたのはそれかな。四六時中完璧な演技はできないし、そのままも色々問題がある。たいていのことは記憶の問題でごまかせるから、適当に愛想よくしてすませる」
「む。翼はそういうの嫌いだったと思うけど、つばさはそれでいーの?」
「愛想笑いが好きな奴は多くないと思うよ。もともと、そんなに親しいのはキミたちくらいだろ? 愛想笑いって言っても、おれの記憶と同じなら、適当な距離でごまかせるよ」
「姉さんって、そういう演技、上手だったわよね。でも、学校でそんなだと、大変じゃない?」
「そうでもないよ。家では気を抜かせてもらうしな。まずはとりあえず卒業まで軽く猫をかぶるってことで、やれるだけやってみるさ」
この話し合いの前に、最初から結論を出していた翼の言葉には、すでに迷いはない。それを察したような陽奈はじっと翼の様子を窺ったが、文月と飛鳥はさらにあーだこーだ問題点を列挙する。
最終的にどうするか決めるのは翼自身だ。翼はあくまでも参考意見として、そんな三人の言葉に耳を傾けた。
concluded.
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初稿 2005/02/25
更新 2014/09/15